水の都記念病院

そけいヘルニア
専門外来

そけいヘルニアとは?

”鼠径”は 鼠(ねずみ)と径(けい)の2文字から出来ています。径は“こみち”を意味します。鼠経は文字通り鼠の通り道という事になります。鼠は何かというと男性の生殖器である睾丸を意味します。睾丸(ネズミ)が通る径(こみち)を鼠経管といいます。また”ヘルニア”という 言葉は、ラテン語で『飛び出る』を意味します。ヘルニアという病名では腰痛の原因になる椎間板ヘルニアが有名です。この場合は椎間板が飛び出る病気です。つまり何かが飛び出して、通常の状態にない事を”ヘルニア”と言います。

鼠経ヘルニアとは体内で内臓を保護する「筋膜」がゆるみ、その穴から鼠経管を通って脂肪や腸管などが移動してしまう状態を指します。

腸管が脱出するので脱腸と言われています。腹部に力がかかった際に、下腹部周辺で膨らむ部分を発見することによって気づくケースが多いです。脚の付け根に押すと戻る膨らみがあったり、引っ張られるような違和感を感じた場合に鼠経ヘルニアを疑います。

鼠径ヘルニアの発生機序

腹部の臓器は腹膜という柔らかい膜で覆われています。
ただ、腹部の皮膚の下に腹膜しかなければ腹部の臓器は全て下に落ちてしまいます。人が二足歩行をしても腹部臓器を保持できるのは筋肉と筋膜が腹膜の外側にあり固い壁を作っているからです。逆に言うとその壁に穴が空いた場合は腹圧により腹膜が押し出されヘルニアが発症します。

タイヤの外側の堅いゴムが筋膜、内側の柔らかいゴムが腹膜に相当するイメージです(図1)。

腹膜脱出のイメージ

(図1)腹膜脱出のイメージ

鼠径部は解剖学的に筋膜の穴ができやすいことが知られています。子供は母胎内で睾丸は腹部の上部に存在し生まれるまでに陰嚢内に降りてきます。その際に腹膜を引っ張って降りてくるのですが、その腹膜が開存したままで誕生した際にできるのが子供の外鼠径ヘルニアです。大人の場合はその腹膜の開存部が大人になって広がったもの(腹膜症状突起開存型)、あるいは腹膜は閉じているのですが、二次的に腹圧により鼠経管にヘルニアが発症したもの(denovo type)が外鼠経ヘルニアと言われています。また、重いものを頻回に持ち上げたり、肥満により腹圧があがり鼠経管を通らずに腹部の最下部が徐々に押し出されて発症するのを内鼠径ヘルニアと言います。また高齢のやせ型の女性に多いのですが大腿動脈の隙間に発症する大腿ヘルニアもあります(図2)。

鼠径部ヘルニアの種類

(図2)鼠径部ヘルニアの種類

鼠径ヘルニアの症状

初期症状は、立った時とかお腹に力を入れた時に鼠径部の皮膚の下に脂肪や腸管の一部などが出てきて柔らかいはれができますが、普通は指で押さえると引っ込みます。次第に不快感や痛みを伴ってきます。腫れが急に硬くなったり、膨れた部分が押さえても引っ込まなくなることがあり、お腹が痛くなったり吐いたりします。これをヘルニアの嵌頓(図3)といい、急いで手術をしなければ、命にかかわることになります。嵌頓は鼠経ヘルニアの患者様ではいつ発症するかは予想できません。一生嵌頓しないことも多いですが、いったん嵌頓が発症すると重症化し、腸管切除を必要とする場合も多くなるので、鼠経ヘルニアは診断がつき次第早めの手術治療を勧めています。

ヘルニアの嵌頓

(図3)ヘルニアの嵌頓

当院の取り組みが毎日新聞徳島版に掲載されました

ソケイヘルニアに対する当院の取り組みを毎日新聞社に取材して頂き、
2014年2月14日の毎日新聞徳島版に掲載されました。

ヘルニアは下腹部の症状のため『恥ずかしいから』と受診をためらわれる方もいらっしゃいますが、誰でもなる可能性があると認識し、脚の付け根に膨らみを見つけたり、ツッパリを感じられたらすぐに受診されることをお薦めします。(当院院長より)

2014年2月14日の毎日新聞徳島版

2014年2月14日の毎日新聞徳島版

治療方法

鼠径ヘルニアは「筋膜」の緩みによって発生する病気であり、その「筋膜」は投薬、運動では強化できないため、手術以外に有効な治療方法はありません。当院では鼠経ヘルニアの標準治療術式として、腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術を行っています。鼠経ヘルニアの手術方法は昔から行われていた組織修復法(メッシュを使用しない)、前方アプローチ法(メッシュプラグ法、ダイレクトクーゲル法など)、後方アプローチ法(TAPP法TEPP法、LPEC法など)など多種多様な手術方法があります。最終的にヘルニアの原因となっている穴を確実に閉じることが目的なので、そのアプローチ方法もたくさんあるわけです。症例に応じて、また患者様の御要望に応じてこれらの手術方法を使い分けることで、患者様のニーズに応えられるように努力しています。

腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術とは

腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術(TAPP法:transabdominal preperitoneal approach)とは、腹腔鏡という細い内視鏡を腹腔内に挿入し、内側から鼠経部のヘルニアが起こりえるすべての部位をメッシュシートで補強する方法です。当院ではTAPP法(図4)を鼠経ヘルニア手術の標準術式としています。この方法は他の手術方法に比べて、手術創が小さく美容的に優れており、術後疼痛が少なく、再発率も低い理想の手術と言われています。当院でTAPP法を行った患者様の95%以上が手術日の朝に入院し午後から手術を行い、一泊二日で手術の翌日に退院しています。デスクワークなら退院翌日から仕事復帰可能です。重いものを急に持ち上げる動作は、手術後1か月くらいは控えてもらいますが、ランニングや筋トレなどは術後1週間経過すると可能になります。当院では2012年にTAPP法を導入し2024年現在までに250症例を超える手術を行ってきましたが、再発症例は1例のみ(0.4%)でした。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)

(図4)腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)

腹腔鏡下手術の利点

  • 傷あとが小さく痛みが少ない。(開腹手術では5cm程度)
  • 入院期間が短い。(2日から3日程度)
  • 日常生活に早く戻れる。
  • ヘルニア発生部位が左右の2ケ所にあっても同時に治療できる。
  • お腹の中(腹腔内)を観察しながら手術を行うので、症状が出ていない小さなヘルニアの見落としが少ない。

腹腔鏡下手術の順序

step
01

皮膚切開

手術は全身麻酔下に図のように臍部に5mm、右側腹部に5mm、左側腹部に3mmの三カ所の皮膚切開を加えて開始します。臍部の創部から腹腔鏡を挿入し、左右の手術創から鉗子(医療用のマジックハンドのような器具)を挿入して行います。

step
02
腹腔鏡挿入

腹腔鏡挿入

腹腔鏡を臍部から挿入し、図に示す様にテレビモニターで腹腔内を観察しながら手術を開始します。

step
03
患部確認 観覧注意

患部確認

成人男性左外鼠径ヘルニアの腹腔鏡から見た様子です。写真中央にくぼんでいる様に見えるところに小腸が入り込んで脱腸症状を引き起こしていました。(以下の写真は患者様の同意を得て掲載しています)

step
04
腹膜切離 観覧注意

腹膜切離

腹膜を切離し、膀胱前腔まで剥離した状態です。
鼠経部を構成する靱帯や血管、筋膜が露出されています。

step
05
ヘルニア門閉鎖 観覧注意

ヘルニア門閉鎖

腹膜が十分に剥離できたら、メッシュシートを腹膜の内側に展開しヘルニア門を閉鎖します。
メッシュシートを腹壁に固定します。

step
06
腹膜縫合 観覧注意

腹膜縫合

腹膜を縫合します。縫合手技もすべて腹腔鏡下に行います。
手術終了図です。手術前のような腹膜の穴が消失しています。

診療案内

担当医:院長 佐々木克哉
(日本消化器外科学会専門医、指導医)


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